探求簿を書いているとき、『愛知民謡集-三味線譜と解説-』という素敵な資料に出会いました。この本には愛知県の発掘民謡の譜面とその歴史がわかりやすくまとめられていて、とても勉強になりました。
そしてこの本はとても新しく、編著者の蟹江尾八先生は現役で活躍されているお師匠さんだということがわかりました。今まで参考にしていた資料の著者はほとんどお亡くなりになっていたので、私にとってはとても嬉しい事実でした。
思い切って取材願いを出したところ、許可をいただけたので、今回は民謡・端唄 唄と三味線 蟹江尾八会主催の蟹江尾八先生について特集をしたいと思います。
蟹江先生の邦楽歴
主なご活躍
1973(昭和48)年 民謡、端唄を篠田紫栄氏に師事する
1987(昭和62)年「名古屋甚句」で「全日本民謡民舞連盟全国大会」にて優勝する
1990(平成2)年「岡崎五万石」で「輝け!日本民謡大賞愛知県大会」優勝する
1992(平成4)年 公演「民謡と端唄 蟹江尾八会」開催 以降毎年開催する
1997(平成9)年 邦楽学理を千藤幸蔵氏に師事する
2016(平成28)年 『愛知県民謡集 第一巻 ―三味線譜と解説―』を発刊する
2020(令和2)年 南国の日本民謡のCD「南の島から」のプロデュースをする
2022(令和4)年 名古屋市芸術賞 奨励賞を受賞する
『愛知民謡集 第二巻 ―三味線譜と解説―』を発刊する
このほかにも本の出版、作曲等の活動を行われています。
篠田紫栄先生
蟹江先生に最初に師事したのは、民謡、端唄を専門とする篠田紫栄先生でした。しかし元々弟子入りを希望していたのは蟹江先生のお父様でした。当初はお父様の三味線を調弦のみをしていたそうです。
音楽が好きで、当時フォークソングを歌ったりバンドで活動していた蟹江先生に邦楽を唄うよう篠田先生は勧めました。そしてご自身も篠田先生のお稽古場でお稽古をするようになりました。
民謡ブームと賞の受賞
篠田先生に師事しているときから、民謡大会で賞を受賞するようになります。そして、世の中に民謡ブームが訪れました。このとき当時人気ジャンルだった津軽三味線を習得します。
千藤幸蔵先生
様々な民謡大会に出場される中で、審査員として参加していた千藤幸蔵先生と出会います。千藤先生は千藤流家元として、邦楽を論理的に研究していました。
千藤先生は民謡大会での優勝者を褒めませんでした。いつも優勝者に対しても「このような唄い方は違うよ。」と言うため、蟹江先生はいつも「何が違うんだろう。」と思っていたそうです。その「違う」を理解するためには千藤先生に師事してみるのが一番いいと思った蟹江先生は、千藤先生のお稽古場の門を叩きます。
「入門当時はいろんな民謡の舞台に賛助出演していたし、日本コロムビアからの依頼で民謡の伴奏も務めていたから怖いもの知らずだった。」と蟹江先生は笑いました。
実際の千藤先生のお稽古は、演奏を見てもらう時間よりも座学の時間が多かったそうです。音を周波数で捉えるなど、論理的な説明で美しい音で演奏するにはどうすればいいか学びました。そのうちに蟹江先生はかつてはわからなかった「違う」の意味が分かるようになったそうです。
ここでの学びを埋もれた民謡の発掘に活かし、蟹江先生は後に『愛知民謡集-三味線譜と解説-』という本を出版します。
小六月追記メモ~本條秀太郎先生と服部鋭夫先生~
蟹江先生に影響を与えた方として、本條秀太郎先生と服部鋭夫先生の名前が挙がりました。
本條先生は、民謡、現代民族歌謡、江戸端唄、三味線現代曲、そしてご自身で築かれた俚奏楽という新たな邦楽のジャンルを専門としています。メディアに出たり、国内外で様々な形式の公演を開催されたりと幅広くご活躍された本條先生。かつてその三味線の音色を聴き、「細棹三味線の魅力に気づいた。」と蟹江先生は語りました。
服部鋭夫先生は、歌手、バレエや舞台の脚本家、民謡研究者といった多様な経歴の持ち主です。特に中部地方の民謡調査と民謡の発掘に精力的で、「名古屋甚句」「名古屋名物」といった民謡も服部先生の手によるものです。また、蟹江先生のご近所さんでもあったため、「服部先生は何かあるとチャイムを鳴らして訪ねて来た。」と教えてくださりました。
現在のご活動
その後は、埋もれた民謡の発掘、盆踊り曲等の作詞作曲、民謡CDのプロデュース、三味線譜集の出版、愛知芸術文化協会やCBCクラブでの芸術活動など、様々な活動をされています。
ジャンルも民謡や端唄だけではありません。昭和歌謡の歌唱、お囃子や海外の音楽の三味線譜化・演奏など幅広く活動されています。そして2022(令和4)年には名古屋市芸術賞 奨励賞を受賞しました。
それでもまだやりたいことはあると教えてくださりました。「あなたもジャンルを限らず何でもやるといいよ。」と優しく語ってくださりました。
まとめ
「伝統音楽の研究も大事だけど、それだけじゃ足りない。先人がその道を目指した背景や、伝統音楽のために尽力した方ご自身の記録を残すことも大事だ。」と考えていた私にとって、蟹江先生のような方の取材は念願でした。
一度もお会いしたことがなかった私のために時間を割いたいただいただき、蟹江先生には感謝の気持ちでいっぱいです。
そして成功者の体験は成功者を目指す方にとって重要な情報となると考えています。その点において私は蟹江先生を取材できたことはとても大きな前進となったと思います。同様にこの記事がこれから頑張りたい方の参考になればと思います。
↓蟹江尾八先生主催 民謡・端唄 唄と三味線 蟹江尾八会HPはこちら
参考HP・文献
・本條秀太郎 Official Web Site
・民謡と端唄 唄と三味線 蟹江尾八会HP
・愛知民謡集 第一巻 -三味線譜と解説-(蟹江尾八音楽事務所)
・愛知民謡集 第二巻 -三味線譜と解説-(蟹江尾八音楽事務所)
・中部圏の民謡を訪ねて(服部鋭夫)
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