【書籍紹介】愛知民謡集-三味線譜と解説-

愛知県の民謡「設楽さんさ」を調査する過程で素敵な民謡集に出会いました。『愛知民謡集 第一巻 -三味線譜と解説-』。この民謡集が唯一「設楽さんさ」の譜面を記載していたため、調査の要となってくれました。

さらにこの本には「設楽さんさ」のようなの愛知の埋もれた民謡がたくさん記載されていました。こういった民謡は情報が出回っていないため、調査するだけでも大変な手間がかかります。
それだけでなく埋もれた民謡を譜面化し、唄についての短い解説をつけるとなると、その手間は計り知れません。

そんな愛知の埋もれた民謡をどのように調査をしたのか。また、どうしてポピュラーな曲を集めた民謡集ではなく、埋もれた民謡集めた民謡集を制作しようと思ったのか。
今回はこの『愛知民謡集』の編著者である蟹江尾八先生にお話をお伺いすることができたので、まとめていきたいと思います。

蟹江尾八先生の写真
三味線を構える蟹江尾八先生 蟹江尾八会事務局にて撮影

また、蟹江尾八先生の詳細なご活動については以下の記事を参照ください。

発掘民謡

民謡はかつて生活の中で唄われていました。子どもの寝かしつけをするときに唄う子守唄、盆踊りに使用されていた音頭のような唄、うどんの原料となる小麦を臼で碾くときに唄う粉碾唄など、民謡は人々の生活に寄り添って発展していました。

しかし、生活様式が変化するなかで唄われなくなり、伝承が途切れてしまった民謡が数多くでてきました。これらの民謡を先人の調査記録やレコードから見つけて譜面におこし、発掘する作業を行う人がでてきました。そんな人の功績で世に出た民謡を発掘民謡と言います。

託された愛知県民謡発掘

『愛知民謡集』の編著者である蟹江先生の師匠、千藤幸蔵先生もまた埋もれた全国の民謡を発掘していました。そして千藤先生は晩年、蟹江先生に愛知県民謡の発掘を託します。

小六月追記メモ~発掘民謡からポピュラーな民謡へ~

「今全国の民謡大会で唄われているあの民謡は師匠が発掘したんだよ。」と蟹江先生は嬉しそうに語りました。当時千藤先生が師事していた藤本琇丈先生のお稽古場では、発掘した民謡の譜面を書き写し、全国の教室に送付するのは一門の若い方の仕事だったそうです。徹夜で譜面を書き写すという大変な作業でしたが、民謡を全国に届けるという強い使命感の元一生懸命に作業に励みました。

そのような大変な作業を経て全国に届けられた発掘民謡。多くの場所で唄われるようになり、中には多くの演奏会で演奏され、有名になった民謡もあります。

インターネットはおろか、コピー機も普及していなかった時代に発掘民謡がポピュラーな民謡になれたのは、師範の情熱と若い力があったからなのです。

2冊の資料集

民謡の発掘、研究を続けられていた蟹江先生の元に1冊の資料が届けられました。愛知県教育委員会発行の『愛知の民謡』という本です。蟹江尾八会の顧問の方が蟹江先生の活動に役立つと考え、持ってきてくださったそうです。この本には埋もれた民謡の詞が記録されていました。

しかし、詞のみで民謡を発掘することはできません。その詞がどのような音で唄われていたか、すなわちメロディーを記録した資料が必要になります。

そこで蟹江先生は第2の資料『名古屋を中心とした俚謡集』を活用します。この本の編者 加藤政次氏の御息女は音楽大学出身でした。父が記録した民謡の音源を娘が五線譜に変換し、できあがった五線譜をまとめてできたのがこの俚謡集でした。

こうして詞とメロディーの資料が揃い、民謡発掘のための準備ができました。

左『愛知の民謡』、右『名古屋を中心とした俚謡集』

出版へ

これらの資料から最初に「古谷(こうや)の子守唄」が発掘されました。しかし蟹江先生は「当初は民謡集の出版を考えていなかった。」と語ります。

そんな蟹江先生の考えを変えたのが名古屋劇場ジャーナルの編集長でした。飲み会にて蟹江先生が愛知県の民謡を発掘していることを知ると「発掘した民謡をまとめて本を出そう。未完成でもいい。出版することで出発できる。意見があったら改訂すればいい。」と説得したそうです。その言葉に納得した蟹江先生は出版を目指すようになります。

小六月追記メモ~デジタル的な作業環境~

「これを使って譜面を作っているよ。」そう言ってみせてくださったのは、なんとillustratorの画面でした。その他にもレコードを聴くための設備、録音のための機材など豊富なデジタル機材が揃っていました。古くて貴重な資料はテープやレコード、紙など劣化しやすいアナログ媒体で記録されています。そのため以前より「自分が記録するときはデジタルにしよう。」と思っていた私にとっては正に夢のような作業環境でした。

『愛知民謡集』出版

こうして2016年に『愛知民謡集 第一巻』、2022年に『愛知民謡集 第二巻』が出版されました。

正確な譜面と解説が記録されたこの発掘民謡集は、演奏のための資料と民謡研究のための資料の2つの価値を持ち合わせる本となりました。

まとめ

取材後、近所の図書館で『愛知民謡集』を発見しました。「愛知民謡集を図書館に置いてほしい。」と語った蟹江先生の願いは叶えられたことがわかり、嬉しい気持ちになりました。

そして『愛知民謡集』は蟹江先生がお師匠さんから受け継いだ発掘民謡への情熱がこもった素敵な資料だということがわかりました。

お求めの方は以下の連絡先より蟹江尾八会にお問合せください。
[メール]Kanie@bihachi.jp
[TEL・FAX]052 (853) 0261

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