【楽器探求】三味線の糸-規格と材質-

三味線の糸(=弦)はジャンルと個人の趣向によって利用する規格が違います。

今回は老舗楽器糸メーカー 丸三ハシモト株式会社 代表取締役 橋本英宗様に伺ったお話をふまえて、三味線の糸についてまとめていきたいと思います。

丸三ハシモト株式会社 代表取締役 橋本英宗様

規格

三味線糸の規格はジャンルと個人の好みによって使用されるものが変わります。

三味線糸の規格は以下のような呼称で区別されています。

図1 三味線糸規格の呼称

そして上記の図の赤丸、青丸には以下のような数字が入ります。

実際に存在する三味線の糸の規格
※丸三ハシモト 寿糸 極上を参考にしています。

図1 三味線糸規格の呼称 赤丸部分には原料となる糸の重さが入ります。

原糸の実物

原糸

まだ撚りをかけていない段階の原料となる糸。
これを繰って計量し、加工することで三味線糸になる。

三味線糸の詳しい制作方法は以下の記事をご参照ください。

また、三味線糸制作の際にはグラムではなく、匁という単位が使用されているため、赤丸部分には匁の数字が入ります。

糸の種類

図1 三味線糸規格の呼称 青丸部分には糸の種類が入ります。三味線の糸は太い糸から順番に一の糸、二の糸、三の糸と呼ばれています。

匁と種類の差による糸の違い

では匁や糸の種類によって糸にどのような差が生じるのでしょうか。

同一種類、匁違いの場合

同じ糸の種類の範囲内であれば匁の数字が大きければ大きいほど太い糸になります。

生産時に使用する原糸の重さが重いとより太い糸ができるためです。

同一匁、種類違いの場合

では同じ重さの原糸を使用した糸なら一の糸も二の糸も三の糸も同じ太さになるのでしょうか。それは違います。

その理由を13匁の糸を例にご説明します。13匁の糸は13-1、13-2、13-3があります。

一の糸(13-1)13匁分の原糸から50本分制作できます。二の糸(13-2)13匁分の原糸から100本分制作できます。三の糸(13-3)13匁分の原糸から200本分制作できます。(※ただし生産できる本数は正確な数字ではありません。詳しくは後述の追記メモをご参照ください。)

元は同じ13匁の重さの原糸であっても結果的に生産できるロットが違うため、出来上がりの糸の太さに差が生じます。

小六月追記メモ~メーカーの企業努力~

三味線糸を制作するメーカー各社は時代、そしてお客さんの要望に合わせて使用する原糸の重さや撚り方を微調整しています。そのため、同一匁同一種類の糸であってもメーカーによって、あるいは時代によって差が生じます。

企業努力の結果、各社の製品に個性が出るのはとても素敵なことですね。使用する糸の規格を決めている方も、いつもと違うメーカーの同一規格を使用してみると使用感の違いを感じるかもしれません。

ジャンルによる使用規格

そしてジャンル別に使用されている規格は以下の通りです。

ジャンル一の糸二の糸三の糸
長唄15-113-212-3
13-3
清元17~20-115~18-214~16-3
常磐津18~21-116~18-214~16-3
義太夫30-120~30-215~18-3
24~26-3
地唄14~15-114~15-214~15-3
小唄17-115-213-3
端唄15-113-212-3
新内15~18-115~17-213~15-3
民謡17-115-213-3
津軽25~30-115-213-3
14-3
黒字…『上達するための道しるべ 三味線読本』(邦楽社)参照
赤字…橋本英宗様による提供情報

あくまで一般的に使用されている規格なので、まずはお師匠さんに使用している糸の規格について聞いてみるのもいいかもしれません。またお師匠さんの許可があれば試しに別の規格を使用してみるのも楽しいかもしれません。

また、ジャンル別に使用する糸の規格は時代によっても変化します。上記の表は手元にある一番新しい本を参考に制作しましたが、橋本様からいただいた情報と本の内容が乖離している部分もありましたので、赤字で表記しました。

材質

三味線糸の材質は絹、ナイロン、ポリエステル(テトロン)があります。材質別の特徴は以下の通りです。

材質音の特徴メリットデメリット
華やかで音が籠らない三味線を傷付けない、
細かいカスタムができる
高価
ナイロン軽い音がする安価、切れない三味線を傷つける
ポリエステル(テトロン)籠った音がする安価、切れない三味線を傷つける

伝統的な材質で華やかで籠らない音が出ます。一番柔らかい材質であるため、三味線本体を傷つけません。また、12.5-3、12.7-3など匁の小数点以下の調整といった細かいカスタムができるのも絹糸のみです。しかし一番切れやすい材質でもあり、高価なものです。

ナイロン

戦後、三味線の需要が大きくなる中で切れない糸の開発が始まりました。そこで注目されたのが、工業用で使用されていたポリエステル(テトロン)でした。

絹糸と比較すると軽い音がしますが、安価切れにくいという特徴があります。一方でその強度ゆえに、三味線本体を傷つけてしまうというデメリットがあります。

ポリエステル(テトロン)

その後に制作されたのがポリエステル(テトロン)の糸でした。メリット、デメリットは同じ化学繊維のナイロンと同様ですが、ポリエステルは籠った音がします。

まとめ

三味線糸の規格や材質、そしてメーカーを変えることによって響きが大きく変化します。

ジャンル別の一般的な規格を基に糸を選ぶのもいいですが、少し冒険して規格や材質を変更してみたり、同一規格・別メーカー製の糸を使用しても楽しいかもしれません。

参考文献

・上達するための道しるべ 三味線読本(邦楽社)

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